イバラキ農村風呂

ゆっくりしてけ~

お化けアジサイ

父ちゃんの現場手伝いが続いております。

かつては掃除専門だった私も、

今は電気バリカンを振り回し剪定もやっております。

ツツジやサツキ、刈込系の「玉モノ」つまり丸い仕上がりの刈込ものはなぜか私の担当になってきました。

父ちゃん助かるべ~。

その間に、マツとか時間かかるものができるもんな~。

こちらのお屋敷には樹齢およそ150年ほどもあるとは思われるゴヨウマツの巨木があります。

2年前に剪定に入った当初は、

除草剤の影響で枯れかかっていて、

新芽が吹いていない状態でした。

枯らすには惜しすぎます、と父ちゃんが言って、

根に肥料をやったりして見守ってきました。

今年になって緑が濃くなり、

とても元気になりました。

このでっかいゴヨウマツの手入れは、朝から晩までやっても何日もかかります。

ゴヨウマツが終わらない限りはほかの木に手が回せないため、

父ちゃんはこの数日イライラ指数MAX。

 

さて、昨日。

刈込系のものが終わったあと、

岩場に生えているナンテンを剪定してとの指令。

ここのお屋敷は、お屋敷というにふさわしく、

家の敷地のまわりは門や塀の代わりに

めっちゃおおきな岩が組んであります。

ちなみに、ツツジやサツキもこの岩の上に生えていて、

地下足袋をはいて、のぼったり降りたりしながらの剪定作業。

プチハイキングですがな。

その岩場の一角にモサモサと繁茂しているナンテンを、

“さびしくない程度に枝を抜いて3本くらいにし、

 生け花で活けたように配置して”

と父ちゃんからの指令。

3本くらいにしてって・・・・

20本くらいありますけど?!

しかも、生け花って・・・。

自然に生えてるんですけど!!むずかしすぎるよ!!

親方さん、普段そんなこと考えながら剪定しているんですかい、とひとりごちる。

職人というよりはなかなかどうして芸術の世界。

どうにかこうにか自分なりに終わらせて、親方さまに仕上がりをみてもらうと、

無言ののち、少しだけ手直しして仕上げてくれました。

文句言わないところを見ると、及第点だったらしいです。

 

いくつか玉モノを仕上げたあと、

今度はお化けみたいに巨大なアジサイの剪定の指令が出ました。

お化けみたいなアジサイなんて、

誰だって想像がつかないでしょうが、

高さが3m以上あって、

株立ちになっている幹回りは、

大人が3人手を繋いでやっと囲めるほど。

一本一本の枝は細いですが、

これがアジサイだなんて誰も思わないほど巨大です。

これを、

”去年剪定した枝の、次の新芽が吹いているところですべて切る。

 ただし、全体を丸い形にする”

という大変難しい命題でもっておしつけられました。

次の新芽を見極めるだけでも大変だってのに。

しかも、脚立に乗ったっていちばん上は届きません。

「チビな私には届かないよー!」と言ったら

高枝切りばさみを持たされました。

脚立の上で振り回す高枝切りばさみ。

長い上に、見た目より重たい!

さらに上を見上げ過ぎて、首の後ろがいたい・・・。

アジサイは屋敷のきわに植えてあるため、

例の岩の上に乗ったりしないと外側は剪定できず四苦八苦。

刃物持って岩の上にいるんですから、なかなかの緊張感です。

こんな運動神経皆無のオバサンがこの高さから落ちたら、ただじゃすまないな。。。

と思いながら周囲を見渡すと、

隣接するスーパーの駐車場にいた買い物客のおじいちゃんとばちっと目が合い、

お互い照れ笑い。

 

あー。

アジサイ

お化けアジサイよ。

どうしてこんなにでかくなってしまったんだい。

アジサイってのは、私の背丈よりも小さいんではなかったかい。

きみは何色の花が咲くんだい?

・・・とだんだん思考回路がおかしくなってきました。

 

いよいよもう、これ以上は足場も悪く届かない、

上のほうは父ちゃんに頼もう、と思っていたら父ちゃんが

「どうだい、終わりそうかい

とやってきました。

すると仕上がりをみるなり

んー?!なんだこれ、おめえ、この枝切っちまって、

丸くならねえだろうが!

しかもこのあたりの枝が・・・ぜんぶ切っちまいやがって、

こんなのねえよ!まったくどーすんだよ!

 

と罵倒するではありませんか・・・!

しかも、罵倒するだけして、

またすたすた歩いて持ち場に戻り、ゴヨウマツの脚立にのぼっちまいやがった。

 

あんなに必死でやったのにこの言われよう。

しかも、そこまで形は変じゃないと私は思ってたのに。

首痛め損だよ!!

ちぇっ、アジサイなんて一年ですんげー伸びるじゃねえか!!

と心の中は真っ黒な気持でいっぱいに。

そしてブラックついでに腹黒い私が言いました。

”わたし、べつに植木屋になりたくて修行しているわけじゃない”。

怒鳴られて伸びるとか伸びないとか、

そういうレベルじゃないわ。

だってわたし、5月まで子育て専門だったのよ!

好きで植木屋商売やってんのはアンタだけよ!!

 

心の中だけで吐き捨て、(実際には言わないとこが我ながらエライ(笑))

掃除用具を父ちゃんめがけてぶん投げたあと、

自分の地下足袋と帽子をひっつかんで軽トラに乗りこみ、

何も言わずに帰ってきてしまいました(笑)

 

あー。

もう頼まれたって手伝うもんか。

こんなら隣にあったスーパーでレジ打ちしてたほうがマシだってのよ。

心の中では不満が大噴火(笑)

 

***

さてさて。

私は怒りが持続しないタイプ。

怒っていたことなどほとんど忘れて、いつものようにお酒飲みながら夕飯の支度。

すると、父ちゃんが帰宅しました。

「ただいま~」

いつになく、自分から家族に言いました。

めずらし~。

いつもは私が声かけてもアリのつぶやきみたいな”ただいま”しか言わないくせに。

作業着から着替えたあとおもむろに缶ビールをあけ、

座って飲み始めました。

ざくざく切った漬物をつまみに出してあげると、

やおら私の顔を見て、

「・・・・・まだ怒ってる? 言いすぎた。アジサイなんてどうでもいいよな・・・」

とぽつり。

えー。意外。

私が怒ってるの気が付いてたんだ(笑)

「うん。すっごい怒ってる。でもゴメンって言ったら許してあげるよ」

と私が言ったら、

「ごめん」

とペコリ。

 

父ちゃん、結婚してから3回くらいしかごめんと言ったことがありません(笑)

めったに出ないごめんが出た夕方。

私が掃除用具ぶんなげて帰った後、

よほど何か思っていたにちがいありませんね。