イバラキ農村風呂

ゆっくりしてけ~

職人魂

私の友人に、ガスの検針の仕事をしている人がいます。

毎月、検針に行くおうちで、

「植木がみんな変な形になっちまった、植木屋が下手くそだから・・・」

とぼやいているおばあさんがいて、

「すみれちゃんちの父ちゃん、どうにかしてあげて!」と友人が紹介してくれ、

お仕事させてもらうことになりました。

 

おばあさん宅は、もともとはおじいさんが手入れをしていた庭だったそうで、

おじいさんは10年前に病気を患い、体が自由に動かなくなり、

去年他界してしまったそうです。

おじいさんも、毎日庭を眺めては

「植木が変になっちまったい・・・」

とぼやいていたとのこと。

心から庭が好きで、木が好きで、花が好きだったそうなのです。

 

父ちゃんが最初見積もりに行った際、

今まで入っていた植木屋のあまりのひどさに絶句。

「枝垂れモミジが刈り込みバリカンで刈り込んであるよ・・・・

 枝垂れの意味がない・・・!!

 それに、ろうそく仕立ての木がぜんぶ上が開いちゃって、おかしな形になってる」

ろうそく仕立てというのはつまり、

ろうそくに似た円柱形にするということ。

棒つきのアイスクリームみたいに、

きっかり形をつくるやり方ですね。

それが、上のほうがどうもハシゴが低くて届かないのか、

もしくは高所恐怖症なのか、

上のほうはかなり雑に刈り込んでおしまいにしてあり、

上だけが新芽がどんどんのびて、

そのせいで形がとてもおかしいというのです。

枝垂れもみじに限らず、ほとんどの枝が電気バリカンで刈り込まれ、

木も弱って非常に悪い状態だというのです。

 

「おじいさんが元気だったころは、おじいさんがまめに手入れをしていたからね、

 ほんとに綺麗ないい庭だったのよ」

おばあさんはそうぼやきながら

「庭が変になっちまったい、と言いながらおじいさんは死んじゃったわ

 おじいさんの介護しているうちに、わたしも年を取っちゃって、

 車いすではもう草の一本も抜けないのよ」

と。

草が抜けないために、除草剤もかけることになり、

除草剤散布の業者は自分の儲けを出すために安価で品質の悪い除草剤をばんばんかけて草を枯らし、

とうとうだいじな植木もその影響で枯れていきました。

それでも、そんな消毒屋に年間数万円、

植木屋に年間10万円以上の出費をしていたそうです。

 

その、”困った植木屋さん”を10年も頼み続けたのには、

その植木屋を紹介してくれた人に義理立てしなければいけない経緯があったとのことで、

最初うちの父ちゃんが見積もりに行ったときも、

「あなたに頼みたいのはやまやまだけれど、今までの植木屋さんをどうやって断ったらいいのかしら・・・・困ったわね。」

と困り顔。

おばあさんもしばし悩んだらしく、

それから1カ月の間があって、おばあさんから依頼のお電話をくださいました。

その間おばあさんは、前の植木屋さんに、わざわざお手紙を書いて、

今後の仕事をお断りしてくださったらしいのです。

 

そんないきさつでいよいよお仕事にうかがったおばあさん宅。

除草剤で、土のいきもの微生物いっさいがっさいみんな死んでしまったガチガチの庭に生えた木はみな弱っていたとのこと。

「どいつもこいつも悪徳業者だよ、自分の儲けのために、おばあさんをだましてきたとしか思えない」

父ちゃんは怒っていました。

 

そのお宅では連続7日間予定のお仕事となり、

父ちゃんは誰に言われたわけでもないのに、

「今回の仕事は、悪徳業者VS自分!」という位置づけになったらしく、

心底燃えていました。

「植木を直すのは、手間がかかるんだよ。

 前の植木屋より手間をかけるってことだ。

 でも、そうなると手間賃も上がっちまう。

 それは俺はイヤなんだよ。 

 前の植木屋より高い値段で庭が良くなりましたってのは普通。 

 せめて同じ値段、もしくはそれ以下で、よりいい状態にしたい。

 安いのに、うんと良くなった! ってなればお客さんがもっと喜ぶだろ」

父ちゃんの職人魂はアツい!

 

3日が経過した昨日、

ようやく植木全体の半分が終了。

するとおばあさんが車いすで出てきてくれ

「まあ、良くなった!良くなった!! 思っていた庭よ。

 おじいさんに、見せてあげたかったわ」

父ちゃんはそれを聞いて胸がいっぱいになってしまったとか。

私もその話を聞いて、胸がいっぱいになりました。

 

7日かかる仕事が、6日で終わる見通しがつき、

1日分早く終われば値段もその分安くできるため、

父ちゃんはがぜんやる気が出て来ました。

 

それにしてもうちの父ちゃん、商売っけないんですよ(笑)

そこがいいところなんですけどね♪