半藤一利さんの『幕末史』に夢中になり、
隙間時間を見つけては少しずつ読む日々。
私は、学生時代は社会科は得意でしたが、
数字とカタカナに脳みそが弱いと見えて、
歴史年号と、世界史のカタカナの人物・地名をよく覚えられませんでした。
なので、社会科がとても好き、めちゃくちゃデキる!
というわけでもありませんでした。
二十歳の夏休み、親友Rちゃんと「北海道にうまいもの食いに行こう!!」
と函館に旅行しました。
五稜郭で、その他の場所で、この函館でやたらとみかける写真の男の人は「土方歳三」というらしい。
「男前だねえ~」
「ほんとだねえ~」
とRちゃんと私。
歳三の墓なるものが函館山のふもとにあるらしいということがわかり、
なんとなく行ってみようかと寺をたずねると、
墓地には何冊ものノートを収納した鳥の巣箱みたいなものがあり、
旅人として訪れた人の、土方さんへのメッセージが連ねてありました。
京都から函館まで足跡をたどってきた歴史マニア、
新撰組の熱狂ファン、
生き方に憧れ、惚れぬいている男性多数・・・
私とRちゃんはびっくり仰天。
「土方歳三って、新撰組だったんだね~。すごいファンの数だね~」
私とRちゃんは、土方歳三については五稜郭の説明パネル程度の知識だけ頭にいれ、
Rちゃんは土方歳三まんじゅうをおみやげに買って函館から帰ったのでした。
旅から帰り、函館って土方歳三の最期の地だったらしいよと当時付き合っていたボーイフレンドに話したら、
その彼はなかなか勉強ができる人だったので、
「土方歳三なら『燃えよ剣』がおもしろいって聞いたことあるよ。
司馬遼太郎は、もし会えるなら土方歳三と坂本竜馬に会いたいって言ったらしいよ。」
と教えてくれました。
(彼がどの情報源でもってそれを知っていたのかは今では不明ですが。)
司馬遼太郎ってもしや、あの、真っ白な髪の不思議ないでたちのおじいさん作家さんのこと?
あの人って、おじさんが読む難しい本ばっかし書いてんじゃないの?
期待せず読みだした司馬遼太郎にどっぷりはまる二十歳の女子。
あっという間に幕末が好きになり、
お金を貯めて一人で京都の史跡訪問に行ったりもしました。
時は流れ、長男のために火の鳥文庫の伝記をそろえるようになってから、
私もちょこちょこと伝記を読むわけですが、
やっぱり幕末はおもしろい。
ひとりひとりのキャラクターがやっぱり濃い。
片方の見方からはこうであっても、
反対から見るとどうなんだ?
いや、でもこの裏側では?
さらにそれをこっちから見ると、どう?
どの方向からも見ることができて、
どれも、正しいということがない。
そこが私にはすごく面白い。
話は冒頭に戻りますが、
半藤さんのこの幕末史には主人公というものがなく、
幕末の数年間だけを切り取って、
淡々と、ときに面白おかしく書かれています。
作者は昭和5年、東京は下町の生まれのようで、
江戸っ子特有なのかずいぶんと書き方も歯切れがいい。
さらに、頭もすこぶるいい。
史実をものすごく調べまくった上で、
それでもって自分の鍋で調理し、
自分の味付けで文章にしているから面白い。
とくに私が読んでいて面白いと思うポイントがあって、
それは、歴史上の登場人物をさん付けで呼ぶところ。
「土方さん」(土方歳三)
「斉昭さん」(徳川斉昭)
「龍馬さん」(坂本竜馬)
あたりはまだわかるとして、
時々、勝海舟が「勝っつあん」となったりするんです。
ことに、この勝っつあんのことを書くにつけ、
おそらくこの作者は同じ江戸っ子として気に入っているのか、
少し肩入れが違うから面白い。
出番も多い。
勝さんならずも、他の登場人物もごく隣のおっちゃんのことを話すような軽い感じで書いてあるので、
すごく親しみやすい。
幕末そのものはややこしいですが、
「ここからはややこしいのを承知で書きますが」なんて前置きもあって、
すごくわかりやすい話し言葉で書かれています。
実は私、この「幕末史」が押し入れの中から不意に出てきたのには、
きっと私に読めと言っているんだろうという気がしたんです。
本棚が床の間に完成し、
せっかくだから漫画以外も並べようと思って、
恩師からのお下がりの本が山ほど詰まった段ボールを2年ぶりくらいに開けたんです。
そうしたら、この「幕末史」が出てきた。
ちょうど私は、ここ数日、何かの折に勝海舟の名言にふれることがあり、
勝海舟っておもしれえやつだなあ~~~
と思っていて、
大人向けの勝海舟の伝記があったらいいのにって思っていたのです。
そうしたら出てきたこの「幕末史」。
図書館行かなくても、うちにあったわ。
今、幕末でいちばんすきな登場人物は誰ですか?
って聞かれたら、間違いなく「勝っつあん」って答えます。
実力もあるし、性格もからっとしていて、
こういう人に、自分がなりたいって思うわ。
それにしてもこの幕末史、毎日読んでいるのに文字数が多くて終わらない。
終わらないから面白い。
あ、そうか考えてみたらその歴史の延長上に、今日、わたし生きてるのねぇ。