イバラキ農村風呂

ゆっくりしてけ~

忍耐と修行の道場入門 その2

おやつの時間になり、自分も、焼いたあのせんべいにありつける・・・!

と期待満面の笑みで近づいてきたチビ太。

すると先生から笑顔で

「チビちゃんは、残りのお野菜食べたら、おせんべい食べられるよ~」

と先ほどのお皿を手渡されました。

食べ残しの蒸かし野菜が、そのまま残っています。

・・・・どういう反応するのかな~

と思って見ていたら、よほどおなかがすいていたらしく、

ジャガイモとサトイモをぺろりとたいらげました。

しかも、サトイモは皮まで!(笑) 思わず笑いました。

しかーし! ニンジンは食べません。

頑として食べない。

こんなにニンジンが嫌いだったなんて!!

 

せんべいのそばに寄っていくも、

「ニンジン食べてから、おせんべい食べようね~」

とどの先生も笑顔で言うので、

どうにもならない。

どの大人に聞いても、

「ニンジン食べてからにしようねー」

の笑顔一点張り。

泣いたり、地団太を踏んだり、

ニンジンを、友達の口に入れようとしたり、

母ちゃんにあげようとしたり。

でも、みんな

「それはチビちゃんのだよ。」

ついにチビ太、ニンジンを握りつぶしたまま立ち尽くしました。

 

初めて直面した、

「いやなものと向きあう」。

先生は、これがすごく大切だと言いました。

いやなものがあっても、

その先に、

おやつ食べられる、みんなと”するめ”食べられる、

楽しみがあったら、

やり遂げられる、

そこが大切なんです、と。

**したから**していいよ、という“条件付き”とは似て非なるものだと、説明してくれました。

なるほど~。

人生初めて、いやなものと向きあったチビ太。

母ちゃんにはわかる。

きみは、すでにわかっているんだよね。

どうしておせんべい食べられないのか、

どうして、ニンジンを食べてからなのか。

とうとうチビ太は、ニンジンを見るのもせんべいを見るのも悲しくなったらしく、

自分から外へ行き、デッキに正座して、遊ぶ子らの姿をぼ~っと眺めていました。

ニンジンはどうしたんだっけ、と思ったら、

食べずに残したままお皿に置いてありました。

 

「1歳だからかわいそう、じゃなくて、

 1歳はぜんぶわかってるんですよ。」

たしかに、そうなんです。

ダメと言われても繰り返しイタズラをする。

ハミガキ、と言われた瞬間逃げる。

自分ではまだしゃべらないけど、

言葉の意味を、すべて理解して、

大人の心も、読んでいるんです。

いたずらをするときも、

ニンジンを友達の口に入れようとするときも、

チラ、チラ、母ちゃんの顔を見ているんですよね。

「ニンジンを食べなかったから、おやつを食べられなかった」

このことは、本人がよ~~くわかっている。

背中を見れば全部わかる。母ちゃんはよ~くわかりました。

 

チビ太は心も、体も相当につかれたらしく、

帰宅してからはず~っと抱っこ。

そりゃそうだ。 

私にとっては驚きと学びの連続でした。

こう書くと、子どもにとっては厳しそうでつらそうな感じが漂っていますが、

毎日通っている子どもたちは笑顔笑顔ですごーく居心地がよく、

私にとっても楽しい空間でした。

チビ太にとってだけは、別だったでしょうけど(笑)

 

ニンジンは、”最後どうなるか”に興味があったので私が持ち帰りたい旨を告げると、

「ぜひ、つづきが聞きたいです!」

と先生たちも笑顔。

「子どもは、お皿ごとの記憶なので、ニンジンだけじゃなくお皿ごとどうぞ」

とお皿までお持ち帰りになりました。

(ちなみに、付け加えるとこのニンジンは普通のニンジンではなく、

在来種のニンジンのため、普通より”ニンジンくさい”のだそうです。)

 

家に帰ったら、何か食べられると思ったのでしょうけど、

ばあちゃんにも協力してもらい、

「ニンジン食べてからにしようね」と笑顔。

ガーン・・・・ チビ太はもう泣きだしました。

いよいよ園児二人が帰宅してきました。

すると娘が、

「なあに?チビ太はニンジン食べないの? じゃ、食べさせてあげる」

とスプーンで口に運びました。

すると・・・・食べた!!

アッサリ食べちゃった!(笑)

 

でも、最後の一口を食べたくないと、夕飯まで粘りました。

父ちゃんが帰宅して、かくかくしかじかわけを話すと

「なんだ? こんなちっとくれえ(ちょっとくらい)たべちまえ」

とスプーンですくって口に入れると・・・・

食べた・・・!!

 

ようやく、ご飯にありつけたのでした~。

その、うれしそうな顔!!

今まで見たことのない顔でした。

複雑、おいしくない、でも嬉しい、がんばった、食べられた・・・・!

ぜんぶが入り混じった顔でした。

 

夕飯のときのチビ太。

何を食べてもおいしく感じるらしく、

今まで食べなかった野菜までどんどん食べました。

これまでは、ちゃぶ台の上に乗ったり、

汁に手をわざと突っ込んだり、

お茶を口からわざと出したり、

食べている時もいたずら放題でしたが、

ウソみたいに真剣です。

そりゃそうだ。

おなかがすいていたに違いない。

私は、先生の言葉を思い出していました。

「食べる集中力、遊ぶ集中力、ぜんぶ、大切なものです。

 おなかがすいていれば、

 どんなものでも食べられる。

 ましてや、栄養のある野菜を、きちんと食べることは丈夫な体をつくることだからね。

 空腹を、体でよく知っていることは大切なんです。」

 

 

チビ太は翌日どうなったかと言うと・・・・

昨日まで、家にいれば四六時中おやつのかごを指さしてやれあれだのこれだのと催促していたのに、

しかも、出したおやつを、それじゃないと首をふって「もっとおいしいもの!」

とワガママ言っていたのに、

なんと! ・・・欲しいとも言わなくなりました。

信じられない!

さらに、本当に、嘘みたいに野菜を食べてくれるようになりました。

ちょっといやな顔をしたり、

口から出したりしても、

「もぐもぐ、ごっくん♪」と何回か声をかけると、

どうにかこうにか、食べてくれるようになりました~。

いやあ、なんじゃこれは。

マジックだ。

 

翌日になって、

チビ太は背中が変わりました。

なにがどう、と説明できないんですが、

母ちゃんにはわかりました。

成長しました。すごく。

 

そんなことを思っていたら、先生の言葉を思い出しました。

「チビ太くんは気持ちの、ちょっとそわそわしたところがあったのかな。体力もあるし、運動能力もあるね。

 気持ちの発達と、体の発達と、かみ合うところがあるといいよね」

思うがままに体が動くようになるのが早かったので、

脳の発達→危険認識能力が育つ前に、自由になれることが多かった、という先生からの解説でした。

たしかにそのとおり。

気持ちのそわそわしたところ・・・かあ。

うまれてこのかた、上に3人ものきょうだいがいて、

わーわーキャーキャーしたがさつな環境で育ってきたわけですから、

そりゃ気持ちが落ち着く暇もありゃしないわけだなあと、話を聞きながら母ちゃんはひとりごちました。

末っ子だから、けっこう「赤ちゃん」であることですべて許されてしまう場面があり、

7つも離れた長男は、当たり前だけど可愛がってくれるし、

ひとつ上のちゅーたんはおっとりしていてやさしいので、チビ太とは正反対の”やられ役”。

そこへきて、たったひとりの女きょうだいは小さいお母さんのように世話を焼いてくれる。

両親も、赤ちゃん扱いするわけです。

いろいろな環境があいまって、

がまんするとか、ぐっとこらえるとか、

小さいながらに経験する場面が、ちょっと少なかったのかもしれません。

半面、それはそれでおおらかな良い環境でもあることは確かです。

 

チビ太にとっては、今回の保育所体験は道場であったと思います。

初めてのがまん。

初めての、試練。

 

まだこんな小さいうちにそれをさせるかどうかは、

大人ひとりひとり考え方で賛否両論だと思います。

いいとか悪いとか、そういうふうにとらえ出すと、正解なんてない。

厳しすぎる、という人ももちろんいるでしょう。

でも、あきらかに言えることは、私とチビ太にとっては、

ほんとうに深い体験でした。

知識だけじゃない、本で読んだのと全然違う、

まさに身をもって経験した、

”人間育ちの道場”。

お皿を返しに行きながら、

ニンジンの顛末を先生にお話しできるのが楽しみです。

チビ太の今後の様子も、私にとっては大いにワクワクします。